「ブランディング」の意味
「ブランディング」とは、企業や商品・サービスに対して、顧客(消費者)や社会に独自の価値やイメージを形成し、他社との差別化を図るマーケティング戦略です。
この説明だけでは、よくわからないと感じる方も多いのではないでしょうか。
それは「ブランド」というもの自体の認識が曖昧なため、それを形作る「ブランディング」自体もうまくイメージができないからです。
「ブランディング」を理解するために、次に「ブランド」の歴史や意味についても詳しく見てみましょう。
ブランドの歴史とは
ブランドの起源は家畜の烙印

「ブランド」は、1500年代の古ノルド語「焼印(brander)」が語源とされており、家畜に所有権の印として焼印が付けられていました。
それから、家畜だけでなくワイン樽などの生産品にも焼印を目印に付ける習慣が根付いていったことで、焼印(ブランド)は所有権のほかに産地や品質の保証にも使われるようになっていきました。
ブランドが信頼の証に
産業が発展していくにつれてさまざまな商品が生みだされ、同時に消費者にとっても選択肢が増えていきました。
そのため、ブランドは消費者にとって多くの商品から自分に最適な商品・サービスを選択するための「信頼の証」のような意味合いを持つようになっていったのです。
つまり、ブランドとは消費者が企業や商品・サービスを信頼して購入するための証といえます。
であれば、そのブランドを形成することを指す「ブランディング」は消費者に企業や商品・サービスを信頼してもらうための活動という意味で捉えることができます。
ブランディングが重要視される理由
消費者に良いイメージを持ってもらうための信頼獲得に必要不可欠な「ブランディング」は、今やD2CやECなどの小売業界だけでなく、企業を顧客とするBtoBも含めたさまざまな業種のマーケティング活動で重要視されています。
なぜブランディングが今そこまで重要なのか、現状の背景からその理由を解説します。
増えつづける消費者の選択肢
急速な技術の発展とともに色々な商品・サービスは日々生まれ続けています。そこには真新しいものもあれば、似た商品が大量に生まれることもあります。
そんな大量の商品・サービスから、消費者が商品の価格や機能面で選択することは非常に難しいでしょう。企業からしても、自社商品の強みとして挙げる要素は、たいてい他にも存在していて”唯一”とは言い切れません。ネットを駆使した情報収集に慣れている現代の顧客が、インフルエンサーや広告の信頼性に懐疑的な印象を持つようになっている今だからこそ、自分から発信して信頼を得る「ブランディング」が必要なのです。
今、モノを売るのに必要な「ブランディング」

今消費者に商品を購入してもらうためには、どのようなブランディングが必要なのでしょうか。
2023年よりステマ規制が強化されたことからわかるように、消費者はすでにインフルエンサーやSNSを活用した虚偽広告を幾度となく目にしています。その状況下で信頼を得るためには、企業や商品・サービスがなぜ安全で、どのような要素が信頼に足るのかを発信しなければいけません。
ゴールデン・サークル理論でも有名なサイモン・シネックは「人々は、あなたが何を売っているかではなく、なぜそれを売るかという理由を買う」と述べています。
顧客はあなたのWHATを買うのではない。あなたのWHYを買うのだ。
サイモン・シネック「TED:How Great Leaders Inspire Action(2009)」
SNS慣れにより多くの情報が目に入る消費者にとって、WHATの説明や広告が懐疑的なものに感じてしまう今だからこそ、なおのこと消費者に「なぜそれを売るのか?」を信頼してもらうためのブランディングを実施することが重要なのです。
論文研究から学ぶブランディングのポイント
最後に、消費者にどのようなブランディングを実施すれば信頼してもらえるかについて、著名な研究結果から参考となるポイントをわかりやすく解説します。
「共創」を意識したブランディング
「共創」とは、言葉の通り共に創り上げることを指します。Sarasvuo Sonjaら(2022)は研究の中でブランディングにおける共創の重要性や観点を示しています。
ネットやSNSの普及のおかげで、消費者たちはさまざまな場所からブランドとのコミュニケーションが行えるようになりました。消費者が意見し、ブランドがそれを反映した新しい商品をつくるなど、すでにブランドと消費者は「売り手ー買い手」だけの関係ではなくなっています。
ブランドは、消費者を顧客という立場としてだけでなく、ブランドを共に創り上げる仲間としても積極的に巻き込んでいかなければなりません。
ブランド側からの発信だけでは顧客の信頼を得ることが難しい以上、顧客同士がブランドを拡散していく環境(コミュニティ)づくりをブランディングで実施していくことが望ましいといえます。
最新Techを活用した新たな顧客体験
マーケティングの神として知られるコトラーは、『Marketing 5.0』(2021)で、これからの時代デジタルに慣れた顧客に合わせて、AIなどのテクノロジーを活用したデータドリブンなマーケティングの実施を推奨しています。
AIサービスやWeb 3.0の技術発展が進む今、仮想空間の中での買い物や、欲しい商品をAIに選んでもらうなど、さまざまな顧客体験を創造できるようになりました。最近だと、無印良品がメタバース上に銀座店を出店したニュースは画期的な顧客体験の事例です。
このように、新しいテクノロジーを活用した顧客体験は、機能面でも差別化が難しく、SNSにも懐疑的な顧客とのコミュニケーション機会を新たに創出するきっかけとなるでしょう。
ブランディングは「人」のメッセージ
論文ではありませんが、ブランド戦略家であるAja Singer氏は「100% Human Branding」という記事で、ブランディングがいかに「人」同士のコミュニケーション足り得るについて、さまざまな有名ブランドの事例をもとに説明しています。
ブランドの「価値観」や「目標」を明確化して、それを効果的な形で顧客に伝えることがブランディングの成功につながるとAja Singer氏は述べています。
本記事でも、ブランディングは消費者に企業や商品・サービスを信頼してもらうための活動であると解説しました。ブランディングを実施するうえで、まずは「誰に・何を・どうやって」伝えるかを明確化するようにしましょう。
意味や定義を正しく知り、効果的なブランディングを行おう
本記事では、「ブランディング」の意味を解説するために、ブランドの語源や背景をたどって本質的な理解のための解説を行いました。
ブランディングは集客や売上を実現するために実施されるマーケティング施策の一つではありますが、顧客にとってはブランディングの活動内容がブランドを信頼するに値するかの判断材料となります。
コカコーラも、ルイヴィトンも、マクドナルドも、常に各領域で顧客に一番に想起してもらえるブランドです。それは、それぞれの領域で最も信頼されているからともいえます。
確かに、消費者の中では効果性や価格、便益で商品を購入する人も多いでしょう。しかし、それだけでは顧客の心をつかむブランドにはなり得ません。
長く愛され、中長期的なPLC(プロダクトライフサイクル)を実現するためにも、効果的なブランディングを事業活動で実施していきましょう。